
ブランド名や商品名には、その存在を一言で言い表すための“圧縮されたコンセプト”が潜んでいます。日常で何気なく呼んでいる名前でも、由来をたどると「なるほど、こういう価値観を示したかったのか」と腑に落ちる瞬間がある。むしろ、その一言に込められた思想や背景こそが、ブランドの第一印象をつくり、長く記憶に残る理由になるのだと思います。
今回は、そんな“名前に込められたコンセプト”がよく表れている4つの身近なネーミングを取り上げます。名前の裏側を丁寧に眺めることで、ネーミングそのものがブランド体験の入り口になっていることが改めて見えてきます。
ファミリーマート(通称「ファミマ」)
全国各地で目にするファミリーマートという名前には、当たり前のようでいて、非常にはっきりした思想が込められています。
この名称は、「お客さまと加盟店、本部が家族的なお付き合いをしながら発展していきたい」という理念から付けられたものだと公式に説明されています。[1]
“family(家族)”という言葉は、単に優しいイメージを与えるだけでなく、ブランドがどんな関係性を目指し、どうありたいかを端的に表現しています。そして「ファミマ」と略されやすい響きも相まって、親しみやすさと理念が自然とセットで広がっていきました。
ネーミングは、単なる印象づくりではなく、ブランドがどんな距離感を大切にするのかまで語れるのだと感じます。
赤本(大学入試過去問題集の通称)
「赤本」は正式名称ではなく、過去問集の通称として長く親しまれている名前です。
1960年代から装丁カラーが赤系統に統一され、「赤本」の呼び名が定着したとされています。[2]
さらに“赤本”という語には、歴史的には“赤い表紙で通俗的な読み物”を指す意味もあったと記録されています。[3]
赤い表紙という視覚的特徴、過去問集という用途、そして学生同士の略称文化。複数の要因がうまく絡まり合って、この名前が自立した“文化”のように育っていきました。
視覚情報がそのまま名称として機能すると、認知や定着が一気に強くなるという好例でもあります。
鼻セレブ(高級保湿ティッシュ)
もともとは「ネピア モイスチャーティシュ」という名称で発売されていた商品ですが、カテゴリーの認知不足もあり、2004年に大胆に「鼻セレブ」へと改名されました。売上が大きく伸びたことも報告されています。[4]
“鼻”という具体と、“セレブ”という価値を象徴する言葉を組み合わせることで、「鼻を特別にいたわるティッシュ」というメッセージが一言で伝わります。
ここでは、機能・価値・世界観が名前の中でギュッと噛み合っていて、ネーミングそのものが商品のポジショニングを明快にしています。言葉をどう組み合わせるかで、商品全体の解釈がガラッと変わる好例です。
ごはんですよ!(海苔の佃煮)
海苔佃煮の定番「ごはんですよ!」は、そのまま“呼びかけ”が名前になっているユニークなパターンです。
1973年の発売時、社長夫人が子どもに向けた夕食時の声掛けがヒントになったと語られています。[5]
名前そのものが一つの場面を描き、使われるシーンの“空気”まで伝えてしまう。この自然な日常感が、他の佃煮とは異なる親しみと記憶性を生んでいます。
説明ではなく、生活の一コマを切り取ったネーミングは、機能を超えて“関係性”を作る力があると感じます。
まとめ
4つの事例を振り返ると、ネーミングとは単なる“呼び方”ではなく、ブランドが伝えたい価値や関係性、どんな時間や場面に寄り添う存在なのか――そうしたコンセプトを凝縮する営みだということが分かります。
ファミリーマートは理念そのものを、赤本は視覚的特徴と慣習を、鼻セレブは機能と価値の掛け合わせを、ごはんですよ!は生活シーンの温度感を、それぞれ名前に落とし込んでいます。
どれも一言の裏側に“ブランドのあり方”が立ち上がってくる。名前という小さな器に、コンセプトをどう詰め込むか。それがネーミングの本質であり、面白さなのだと思います。
引用文献
[1] 社名の由来とロゴ|株式会社ファミリーマート https://www.family.co.jp/company/familymart/idea/companyname.html
[2] 大学入試の過去問「赤本」はなぜ赤い? 赤くない時代もあった – 毎ドナニュース https://maidonanews.jp/article/15175437
[3] 赤本 (教学社) – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E6%9C%AC_%28%E6%95%99%E5%AD%A6%E7%A4%BE%29
[4] 鼻セレブ|日本ネーミング大賞2020受賞作品紹介 https://j-naming-award.jp/award2020/%E9%BC%BB%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%83%96/
[5] 桃屋の海苔佃煮「ごはんですよ!」の名前の由来は? – Precious.jp https://precious.jp/articles/-/11955

