全国で進む単価上昇と需要回復

2025年も折り返しを迎える中、国内の宿泊業界では引き続き宿泊単価(ADR:1室あたりの平均料金)の上昇が続いている。たとえば、全国88ホテルを対象とした直近の調査では、2025年5月の平均ADRは15,402円(前年同月比+13.2%)、稼働率も80.5%(同+2.7ポイント)と回復傾向が明確になってきた[1]。
この背景には、円安による訪日外国人旅行者の増加、国内旅行の再活性化、そしてエネルギー・人件費の高騰などに対応するための価格調整が重なっている。また、施設のブランディング強化や体験価値向上といった、単価に見合うサービス投資が進んでいることも見逃せない。
万博が牽引した関西市場、終了後の変化に注目
大阪・関西万博(2025年4月〜10月)は、関西圏の宿泊需要を一時的に大きく押し上げた。その影響は数字にも表れており、本町・堺筋本町エリアでは、万博開催期に平均宿泊単価が前年同期比+46〜71%上昇というインパクトのある報告も出ている[2]。
また、京都市内の主要111ホテルでは、2025年9月の稼働率が83.9%(同+7.6ポイント)、ADRが16,903円(同+3.2%)と安定した成長を見せている[3]。これは万博による波及効果の一つとして注目すべき点だ。
一方で、万博終了後の10月以降、関西圏では「宿泊需要の反動減」を警戒する声もある。今後はイベント特需に依存しない需要創出や、宿泊体験そのものの魅力をどこまで継続的に届けられるかが焦点となるだろう。
マーケティングと事業戦略の視点から考える
単価上昇の局面では、単に価格を上げるだけでなく、それに見合う価値をいかに提供し、顧客に納得してもらうかが問われる。以下、マーケティングと運営の両面から注視すべき視点を整理しておく。
① ブランディングと顧客体験の設計
宿泊施設の選定理由が「価格」から「体験」「過ごし方」へとシフトしている今、ブランド力のある施設ほど強気な価格設定が可能になっている。価格に見合った非日常性やホスピタリティの演出が不可欠だ。
② 地域ごとの価格戦略の最適化
東京・京都・大阪など観光需要の強い都市部では単価引き上げの余地がある一方、地方圏やビジネス需要中心のエリアでは競争力ある価格維持が求められる。価格弾力性を読み解き、地域特性に応じた柔軟な設定が必要になる。
③ 需給の先読みと価格の持続性
稼働率が安定してきた今こそ、値上げの「持続性」をどう担保するかが問われている。供給過多への備え、顧客ロイヤリティの維持、チャネル戦略(OTA・直販)との連動を含め、長期的視点での設計が求められる。
まとめ:数字の裏にある構造を見極める
ホテルの単価が上昇している今、注目すべきは“数字の高さ”よりも“その理由”と“どこまで続くのか”という点にある。全国的に稼働率・単価ともに改善している一方で、イベント特需による短期的な伸びと、持続的な需要に支えられた成長との見極めが重要だ。
宿泊業界にとって、万博後の関西は一つの試金石になるだろう。単価上昇を維持するには、体験価値と価格とのバランス、そして地域ごとの需給構造を丁寧に読み解く力が欠かせない。今後の価格戦略を考えるうえでも、最新データとその背景にある構造の理解がますます重要になってくる。
引用文献
[1] 全国主要88ホテルの業績動向(2025年5月) − HOTERES https://www.hoteresonline.com/articles/14227
[2] ビジネスホテル宿泊単価、万博期に大幅上昇 − PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000056249.html
[3] 京都市主要ホテルの稼働率・宿泊単価(2025年9月) − 京都市観光協会 https://www.kyokanko.or.jp/report/hotel202509/
[4] Expo 2025 Osaka, Kansai, Japan − Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Expo_2025

