はじめに

マーケティングの定義は、時代ごとの社会的要請や技術革新とともに着実に変わってきました。本記事では、その変遷を時間軸でたどりながら、日本とアメリカの定義の違いにも注目してみます。定義がどのように社会とリンクしてきたのかを考えることで、これからのマーケティングの姿も見えてくるはずです。
経済と社会の変化が定義を動かす
生産重視の時代(〜1950年代)
近代マーケティングの始まりは、工業化と大量生産が本格化した19〜20世紀初頭。米国では、1935年のアメリカ・マーケティング協会(AMA)による最初の定義が、「財やサービスの流通に関わる事業活動」として提示されました[1]。当時のマーケティングは、生産物をいかに効率よく流通させるかに焦点を当てており、まだ「顧客」の視点は希薄でした。
日本においても、戦後の復興と高度経済成長期には、市場ニーズよりも「いかに作るか」「どう売るか」が優先された時代でした。
消費者志向への転換(1950〜1980年代)
戦後の豊かさが広がる中、アメリカでは消費者の選択肢が増え、企業は顧客のニーズに応えるマーケティングへとシフト。1985年、AMAはマーケティングを「個人および組織の目標を満たす交換を創造するプロセス」と定義し、「交換(Exchange)」が中核となりました[1]。
一方、日本ではバブル経済期に向けて生活者の志向が多様化。1990年、日本マーケティング協会(JMA)は「市場創造のための総合的活動」と定義を発表しました。この定義では、教育・医療・行政などの機関・団体も含めた幅広い主体を認めるとともに、グローバルな視野や環境・地域社会への配慮が盛り込まれていました[2][3]。
社会課題とマーケティング(1990〜2000年代)
1990年代以降、地球環境問題や社会的責任(CSR)が重要視され始め、マーケティングもその影響を受けるようになります。AMAは2004年の定義で、はじめて「ステークホルダー」という言葉を導入し、マーケティングの目的に「価値の創出と提供」を掲げました[1]。
そして2008年には「価値の創造、伝達、提供、交換によって顧客、クライアント、パートナー、そして社会全体に利益をもたらす」とされ、社会全体との関係性を強調する定義へと進化しました[1]。
価値共創とサステナビリティ(2020年代)
日本の2024年定義刷新
2024年、日本マーケティング協会は34年ぶりに定義を更新しました。新定義では、「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることにより、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである」となりました[4][9]。
この刷新には、以下のような時代背景がありました:
- SDGsをはじめとするサステナビリティへの企業責任の高まり
- 地方創生や社会貢献への関心がマーケティングでも高まっている流れ[5]
- デジタル技術やAIの浸透による企業と個人の関係の変容[6]
特に「構想(Design)」という言葉の登場は注目に値します。マーケティングが単なる戦略ではなく、構想力=デザイン思考を含む総合知に進化していることを示しています[6]。
日米比較:マーケティング定義の進化
| 時期 | アメリカ(AMA) | 日本(JMA) | 社会的背景 |
|---|---|---|---|
| ~1950年代 | 生産・流通中心の事業活動 | ― | 工業化・量的拡大 |
| 1985年 | 顧客との交換プロセスを重視 | ―(1990年「市場創造」定義) | 消費者志向、ブランド競争 |
| 2004年 | ステークホルダーの導入 | 同上 | CSR・グローバル化 |
| 2008年 | 社会全体への価値提供 | 同上 | サステナビリティの台頭 |
| 2024年 | 現行定義維持 | 顧客・社会との価値共創明示 | SDGs、地方創生、デジタル変革 |
おわりに:定義の進化は社会の鏡
マーケティングの定義は、その社会が進む方向を映し出す鏡でもあります。日本は「共創」や「社会との関係性」にいち早く着目し、独自の発展を遂げてきたと言えます。
これからは「誰に」「何を」「どう伝えるか」だけでなく、「誰と共に、どんな社会を描けるか」が問われる時代です。定義の進化を追うことは、私たち自身の価値観を見つめ直す旅でもあるのかもしれません。
引用文献
[1] American Marketing Association – Definition of Marketing History https://en.wikipedia.org/wiki/Marketing
[2] 公益社団法人日本マーケティング協会が“34年ぶりにマーケティングの定義を刷新”【PR TIMES】 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000122632.html
[3] 「令和版 ‘マーケティング定義’ が発表。2024年 vs 1990年の比較」 https://www.countand1.com/2024/01/jma-new-2024-marketing-definition.html
[4] 日本マーケティング協会が34年ぶりにマーケティングの定義を刷新 | 電通報 https://dentsu-ho.com/articles/8811
[5] 34年ぶりの定義刷新に見る地方創生への期待 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=81133?site=nli
[6] 新しいマーケティングの定義を考える https://genesiscom.jp/marketing-definition2024jma/
[9] 34年振りにマーケティングの定義を刷新 | マーケジン https://markezine.jp/article/detail/45064

