はじめに

私たちが日常的に何かを購入しようとする際、実は無意識のうちに選択肢を絞り込んでいます。例えば、喉が渇いてコンビニに向かうとき、頭の中に浮かんでいる飲み物の銘柄は、世の中に存在する商品の数に比べればごくわずかです。
このように、消費者が特定のカテゴリーで思い浮かべる具体的なブランド群を「evoked set(想起集合)」と呼びます。今回は、この概念がマーケティングにおいてなぜ重要なのか、具体例を交えながら考えてみたいと思います。
evoked setの意味と位置づけ
evoked setは、マーケティング学者のハワードとシェスによって提唱された概念です。消費者の頭の中にあるブランドは、いくつかの階層に分かれています。
まず、消費者が知っているすべてのブランドを含む「知名集合」があります。その中で、購入の検討対象として残るものが「考慮集合(consideration set)」であり、さらにその中から「実際に買ってもいい」と好意的に想起される数個のブランドが「evoked set」です。
一般的に、このセットに入るブランド数は3〜5つ程度と言われています。どんなに優れた商品を作っても、この「脳内トーナメント」の決勝戦に残らなければ、購入される確率は極めて低くなります [1]。
身近な具体例で考える
スマートフォンの購入を例に考えてみましょう。現在、市場には数多くのメーカーが存在しますが、多くの人が「次はどれにしようか」と考えたときに浮かぶのは、iPhone、Google Pixel、Xperiaといった数社ではないでしょうか。
このとき、名前は知っているけれど選択肢に入らないブランドは「拒否集合」や「未決定集合」に分類されています。一方で、真っ先に名前が挙がるブランドは、見事に消費者のevoked setに入り込んでいると言えます。
また、カフェ選びでも同様の現象が起きます。「ちょっと休憩したい」と思ったときに、スターバックスやドトールが瞬時に浮かぶのは、それらのブランドが私たちの記憶の中で強固なポジションを築いているからです。
実務への応用と気づき
この概念を仕事に当てはめてみると、単に「認知度を上げる」だけでは不十分であることがわかります。名前を知られている(知名集合)ことと、選択肢に入る(想起集合)ことの間には、大きな壁があるためです。
ビジネスの現場では、顧客が課題に直面した瞬間に「あ、あの会社に相談しよう」と思い出してもらえる存在にならなければなりません。そのためには、機能の優位性だけでなく、情緒的な価値や信頼性を積み重ね、顧客の記憶のインデックスに深く刻み込まれる必要があります [2]。
結局のところ、マーケティングの目的の一つは、顧客の脳内にある限られた「椅子の奪い合い」に勝つことだと言えるかもしれません。
おわりに
あなたの提供しているサービスや商品は、顧客が困ったときに思い浮かべる「3つの選択肢」の中に入っているでしょうか。もし入っていないとしたら、どのような接点を作れば、その特別な枠に滑り込むことができるでしょうか。
引用文献
[1] 想起集合(エボークトセット)とは?意味・重要性・戦略をわかりやすく解説 | Oz link
[2] 第一想起とは?重要性と効果的な獲得方法をわかりやすく解説 | Metabadge
