閉店の跡に、あえて出すという選択

最近、都市部の繁華街で「ここ、以前にマクドナルドがあったのでは?」と思しき立地にバーガーキングが出店しているのを目にする。これが偶然ではなく、意図的な“跡地戦略”であるという点が非常に興味深い。
たとえば大阪・難波の千日前商店街に、2024年4月16日オープンした「バーガーキング千日前店」は、2023年10月まで営業していたマクドナルド千日前店の跡地だ[1]。
この店舗では「あと は、お任せアレ。」というフレーズが掲げられ、マクドナルドを想起させるようなカラーリングのポスターも使われていたという。SNSでも「狙ってる」「攻めてる」と話題になり、出店そのものが“無言の挑戦状”のような意味を持ち始めている[2]。
これは単なる空き物件の活用ではなく、マクドナルドが長年培ってきた集客動線を引き継ぎつつ、自社ブランドの存在を印象づけるための意図的なアプローチだと感じる。
デジタル×リアルの融合が生む、戦略の幅
この動きは、立地戦略の範疇を超え、ブランド体験の設計そのものにも踏み込んでいる。たとえばバーガーキングは、公式アプリを通じたクーポン配布や位置情報連動機能を強化しており、リアルな行動とデジタル施策をつなぐ基盤を整えつつある。
海外では、マクドナルドの店舗半径600フィート(約183メートル)以内に入ると、バーガーキングアプリで1セントのクーポンが配布される“ワッパー Detour”キャンペーンが実施され、大きな話題を呼んだ[3]。
日本国内では、より穏当なコミュニケーションを軸にしつつも、跡地という「文脈のある場所」に店を構えることで、ブランド再拡大に向けたストーリーを描こうとしている印象を受ける。
千日前店では、「この場所に刻まれた数々の思い出を大切にしながら…」という言葉を添えて、単なる“代わり”ではなく“継承と刷新”の位置づけであることを示していた[4]。
評判とのバランス:挑発か、再挑戦か
こうした“競合の跡を追う”形の施策は、時にポジティブに、時にあからさまな挑発として受け取られることがある。千日前の出店では、「マックを意識しすぎでは?」という声と、「近くに新しい選択肢ができて助かる」という声が並列していた[2]。
バーガーキングはかつて日本市場で苦戦を強いられた歴史がある。その意味では、こうした動きは“再挑戦”の意志とも読める。
また、単なる目立ちたがりではなく、「地域に根ざす」意志を表現したブランドメッセージには、ある種の誠実さも感じられた[4]。
まとめ
バーガーキングの“跡地戦略”は、出店場所の選定という次元を超え、競合が築いたブランド接点を自らのマーケティング資産へと転換する試みと言える。
マクドナルドの動線や記憶を“借景”として取り込むこのアプローチは、ロケーションとデジタルを融合させた現代的な戦略であり、短期的な話題性にとどまらず、長期的なブランド認知や店舗体験のデザインにも踏み込んでいる。
一方で、“攻めすぎ”の印象をどうコントロールするか、プライバシーやユーザー心理との接点をどう設計するかといった、評判とのバランス感覚も求められる。
個人的には、こうした戦略が「強さ」だけでなく「らしさ」につながるかどうかが、ブランドの寿命を決める気がしている。挑戦の仕方自体が、そのままブランドの語り口になる時代。だからこそ、こういう出店ひとつとっても、見るべきヒントは多い。
引用文献
[1] バーガーキング、難波・千日前の旧マクド跡に出店「ついに」 − Lmaga.jp https://www.lmaga.jp/news/2024/04/808381/
[2] 「マック跡地に開店したバーガーキング、オープン知らせる掲示に『攻めてる』『意識しまくってる』」 − ITmedia ビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2304/04/news047.html
[3] バーガーキング(US)(ファストフード業界)| 導入事例 − Braze https://www.braze.com/ja/customers/burger-king
[4] 難波の旧マクド跡地にバーキン、担当者「良い場所があったので」 − Lmaga.jp https://www.lmaga.jp/news/2024/04/809641/

