
数字で“気持ち”を測るということ
人の「なんとなく好き」や「ちょっと気になる」といった感情を、どうやって数字にして測るのか?
マーケティングリサーチの世界では、こうした曖昧な感覚を、できるだけ正確に捉えるための工夫がいくつもあります。その代表格が、リッカート尺度と呼ばれるものです。
これは、ある設問に対して「とてもそう思う」から「まったくそう思わない」までを段階的に並べ、回答者に選んでもらう形式。言葉では表現しにくい気持ちを、数値に落とし込むためのシンプルかつ強力な方法です。
リッカート尺度の特徴
リッカート尺度は、アメリカの社会心理学者レンシス・リッカートが開発した調査手法です。たとえば次のような設問を考えてみましょう。
「この商品に好感を持ちましたか?」
その回答選択肢として、
- とてもそう思う
- そう思う
- どちらともいえない
- あまりそう思わない
- まったくそう思わない
という具合に、5段階または7段階で意見を測定するのが一般的です。ポイントは、単に「YES/NO」で答えさせるのではなく、意見の強さや傾きを丁寧に拾えること。
また、「どちらともいえない」といった中立の選択肢をあえて外し、肯定か否定のどちらかを選ばせる設計にするケースもあります。回答者の意識を明確に引き出したいときには、こうした工夫も有効です。
よく似たもの?でも違うSD法
ちなみに、リッカート尺度と混同されやすい手法に「SD法(セマンティック・ディファレンシャル法)」があります。こちらは「清潔感がある ― 清潔感がない」「高級感がある ― 安っぽい」など、両極の形容詞を使って印象を測る方法です[2]。
SD法は、感性やイメージに近い部分を捉えるのに向いており、広告やブランドの印象調査でよく使われます。一方で、リッカート尺度は「どの程度そう思うか」といった態度や意見の強さを測るのに適しています。
似ているようで、まったく別の道具です。
丁寧な設計がヒットを生む
リッカート尺度は、調査設計における“基本の型”の一つです。書籍『ヒットをつくる 調べ方の教科書』でも、この手法が紹介されており、「良い問いのかたち」として重要視されています[1]。
何を聞きたいのかを明確にし、相手が答えやすいように構造を設計する。調査とは、単なるアンケート作成ではなく、コミュニケーション設計でもあるということを改めて感じます。
ヒットを生み出す裏側には、こうした見えない努力があるのです。
引用文献
[1] 電通現役戦略プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書 − PHP研究所
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/publish/concerned_marketing/sirabekata_textbook.html
[2] SD法とは│アンケート例、調査設計のやり方、分析方法を解説 − Freeasyリサーチアカデミー
https://freeasy24.research-plus.net/blog/c154

