
一見すると不思議な「関係」
「警察官の数が増えると、犯罪件数も増加する」
このような統計データを見ると、思わず「警察が増えるから犯罪が増えるのでは?」と短絡的に考えてしまいそうになる。でも、冷静に考えてみると、警察の仕事は治安を守ることだ。犯罪を助長するわけではない。では、なぜこんな“矛盾した関係”が生まれるのだろうか。
ここで重要になるのが、「相関関係」と「因果関係」、そしてそれらを見分けるための「交絡因子(こうらくいんし)」という考え方だ。
相関関係は「たまたま一緒に動いている」だけかもしれない
まず「相関関係」とは、ある2つのデータに共通の傾向があること。片方が増えると、もう片方も増える、あるいは減る、という関係だ。
よく知られた例に、「アイスクリームの売上が増えると、水難事故も増える」というデータがある。一見すると、「アイスを食べると水難事故に遭う」ような印象を持ってしまうかもしれないが、もちろんそんなことはない。これは単なる相関関係であり、因果関係(アイスが事故を引き起こす)ではない。
では、なぜこのような関係が見られるのか。それを説明するのが、次の「交絡因子」という考え方だ。
交絡因子がもたらす“第三の真実”
「交絡因子」とは、ある2つのデータの間に見える相関関係を作り出している“第三の要素”のこと。アイスと水難事故の例でいえば、その交絡因子は「夏」だ。
夏は暑いからアイスが売れるし、同時に海や川などでのレジャーも増える。その結果、水難事故も増える。つまり、「夏」という共通の背景が、2つの出来事を同時に引き起こしているだけなのだ。
このように、交絡因子を見抜けないと、「直接的な因果関係がある」と誤解してしまう。
「警察と犯罪」も、同じ構造で読み解ける
では、「警察が増えると犯罪が増える」という例に話を戻そう。これにも、交絡因子や因果関係の誤解が潜んでいる。
たとえば考えられるのは、
- 犯罪が多い地域ほど、警察官が増員されやすいという事実。つまり「犯罪が多い」ことが先にあり、その対応として「警察が増える」という因果関係が成り立つ。
- 警察の数が多いほど、犯罪の摘発数が増えるという側面もある。元々発生していたが可視化されていなかった犯罪が、取り締まり強化によって「記録される」ようになるという見方だ。
このように、「犯罪が増えているように見える」のは、実際には“犯罪が増えた”のではなく、“警察の活動強化により表面化した”結果である可能性もある。
まとめ:数字の裏にある構造を見に行く
相関関係は、数字としてはわかりやすい。でも、それが因果関係であるとは限らない。ましてや、目に見えている関係が“真実”である保証もない。
重要なのは、見かけの数字に飛びつくのではなく、その背後にどんな構造や背景、文脈があるのかを想像し、問いを立てることだ。
因果関係を丁寧に見極める姿勢は、マーケティングでもビジネスでも、日常の小さな判断でも欠かせない力になる。
数字はヒントに過ぎない。その意味を決めるのは、私たち自身の思考だ。

