最近、異業種間の“ちょっと意外なコラボレーション”が増えてきた。パッと見は「なぜこの組み合わせ?」と思わせるような取り組みも、よく見てみると意図が見え隠れしている。

今回は、国内で実際に行われた「謎コラボ」と呼ばれる事例を3つ紹介し、最後に「なぜそんな組み合わせを?」という一歩踏み込んだ試みも取り上げて、それぞれの背景を読み解いてみたい。
なぜ「謎コラボ」は生まれるのか
コラボレーション自体は昔からある手法だが、近年は特に“意外性”に振り切ったコラボが目立つ。
そこには、以下のような狙いがあるように感じる。
- 今まで接点のなかった層へのリーチ
- SNSを中心とした話題づくり
- ブランドイメージの再構築や刷新
- 新たな顧客接点の実験
大事なのは「謎」で終わらせず、違和感を“好奇心”に変えられるかどうか。その点を踏まえて、事例を見ていきたい。
事例1:JA全農 × アニメ『推しの子』 × 福島県産もも
全国農業協同組合連合会(JA全農)が運営する通販サイト「JAタウン」にて、アニメ『推しの子』と福島県産の桃がコラボレーションした限定商品が販売された[1]。数量限定・キャラクターパッケージ仕様で、アニメファンをターゲットにした施策として展開された。
農業団体とアニメというミスマッチなようで筋が通っているこの事例には、以下のような狙いが感じられる。
- アニメファン層へのアプローチによる購買層の拡張
- 農産品の“推し活化”による購買モチベーションの創出
- 地域産品を若年層に届ける“文脈”づくり
- SNS映えするデザインによる拡散効果
単に「可愛いパッケージにした」だけでなく、地方の特産品とコンテンツカルチャーを接続する新しい販売チャネルとして設計されている。
事例2:焼肉きんぐ × ペヤング 焼肉専用バウンドやきそば
焼肉食べ放題チェーン「焼肉きんぐ」が、まるか食品の「ペヤング」とコラボし、焼肉と相性の良い“ガリバタ醤油味”の焼きそばを店内限定で提供した事例[2]。
「焼肉屋でペヤング?」という意外性はSNSでも大きな話題を呼んだ。
この取り組みには、以下のような設計意図が読み取れる。
- 焼肉後半の“味変ニーズ”への対応
- ブランドの親しみやすさ・遊び心の訴求
- 限定メニューによる来店動機の強化
- ペヤング側にとっての“店舗提供”という流通実験
メニュー名も「バウンドやきそば」とユーモアを効かせており、ただの“変わり種”ではなく、焼肉きんぐという業態のなかで自然に楽しめる体験として成立していた。
事例3:おふろcafe utatane × TIRTIR(韓国コスメ)
埼玉県さいたま市にある温浴施設「おふろcafe utatane」が、韓国発のコスメブランド「TIRTIR(ティルティル)」とコラボ。館内の脱衣所にスキンケア商品を設置し、入浴後に自由に試せる体験型プロモーションを展開した[3]。
このコラボは、“商品を売る”というよりも“ブランドに触れる体験”を提供することが目的だった。
- 入浴後という“最適な使用シーン”の提供
- リアル空間を使った自然なブランド体験の創出
- 館内装飾やフォトスポットによるSNS拡散誘導
- 試用→EC購入という流れを意識した顧客導線設計
温浴施設にとっては“非日常性”の価値向上、TIRTIRにとっては“触れてもらう”接点創出という、目的の合致したコラボレーションになっていた。
事例4:「謎すぎて」逆に記憶に残る異質コラボ
最後に紹介するのは、「なぜそれを組み合わせた?」と感じさせる、異質な掛け合わせ。
たとえば、ある老舗の家具ブランドと国内オーディオメーカーが、無垢材を使ったBluetoothスピーカーを共同開発した例。製品は高価格帯だが、「家具 × 音響」という“生活の質”をテーマにした構成で、雑誌などでも話題になった。
こうした試みにおける戦略意図は次のように整理できる。
- 意外性による記憶定着(ギャップ効果)
- ブランドの柔軟性や“挑戦する姿勢”の訴求
- 新市場へのテストマーケティング
- 話題性重視のPR施策としての機能
消費者にとって“よくわからないけど気になる”存在になれるかどうか。そのぎりぎりの線を攻めた事例として印象に残る。
謎コラボを“意味あるもの”にするために(私見)
単なる話題づくりではなく、意味ある試みとして機能するには、いくつかの要点があると感じている。
- 違和感に物語を与えること
意外性はきっかけに過ぎない。なぜこの掛け合わせなのか?に納得できる背景を用意できるかどうか。 - リアルな接点・体験を設計すること
手に取る、食べる、使ってみるなどの“触れる場”をつくれると、コラボの記憶は深く残る。 - ブランド軸をブレさせないこと
挑戦は大事だが、ブランドとしての価値観や方向性との整合性がなければ“迷走”と捉えられかねない。
謎コラボは、ただ奇抜なだけでは成立しない。そこにある種の必然性や、企業の想い、そして受け手が参加できるストーリーが乗って初めて、“意味ある意外性”として機能するのだと思う。
引用文献
[1] 福島県産もも×TVアニメ『【推しの子】』コラボ商品販売 − JA全農福島公式サイト
https://www.zennoh.or.jp/fs/topics/2025/105952.html
[2] 焼肉きんぐ×ペヤング「焼肉専用バウンドやきそば」提供開始 − PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001015.000044964.html
[3] おふろcafe utatane × TIRTIR スキンケア体験型コラボ − predge(旧PR TIMES STORY)
https://predge.jp/295641/

