ステマとは何か

ステルスマーケティング(いわゆる「ステマ」)とは、広告であることを隠して宣伝行為を行う手法を指す。たとえば、企業が報酬を支払ってインフルエンサーに商品を紹介させながら、投稿内で「広告」や「PR」であることを明示しないケースが典型だ。消費者はそれを第三者の意見だと誤認し、購入判断を誤るおそれがある[1]。
ステマとは何か
ステルスマーケティング(いわゆる「ステマ」)とは、広告であることを隠して宣伝行為を行う手法を指す。たとえば、企業が報酬を支払ってインフルエンサーに商品を紹介させながら、投稿内で「広告」や「PR」であることを明示しないケースが典型だ。消費者はそれを第三者の意見だと誤認し、購入判断を誤るおそれがある[1]。
ステマの主なタイプは次の二つに分類される。
ひとつは、企業が一般消費者を装って投稿する「なりすまし型」。もうひとつは、インフルエンサーやモニターに報酬を支払って宣伝させながら、その事実を隠す「利益提供秘匿型」だ。いずれも消費者の自主的判断を歪める点で問題視されてきた[2]。
規制導入の背景と法改正の流れ
SNSやレビューサイトが購買行動に強く影響するようになり、企業と消費者の距離が近づいた一方で、広告主がその関係性を悪用するケースが増えた。特に「自然発生的な口コミ」を装った宣伝が相次いだことで、消費者庁は明確な規制の必要性を打ち出した[3]。
2023年3月28日、内閣府は「ステルスマーケティングに関する告示(内閣府告示第19号)」を公布。同年10月1日から施行され、ステマ行為自体が「景品表示法に基づく不当表示」として禁止対象となった[4]。
ステマ規制の枠組みと本質
規制の目的
ステマ規制の本質は、「#PR」などのタグを形式的に入れることではなく、投稿が“口コミ”なのか“広告”なのかを消費者が正しく判断できる状態をつくることにある。
つまり、「PR表記があるか」ではなく、「広告であることがわかるか」が判断基準だ[5]。
消費者庁の運用基準でも、「事業者による表示であることが一般消費者に判別困難なもの」を禁止しており、その目的は“広告であることを隠す”構造そのものを排除することにある[6]。
したがって、#PRを付けていても、文脈上広告と気づきにくい表現になっていればステマと見なされる可能性がある。逆に、PR表記がなくても、明確に広告だと理解できる構成であれば違反には該当しないケースもある。
規制対象と範囲
ステマ規制の対象は、あくまで**広告主(事業者)**である。広告を依頼されたインフルエンサーや投稿者個人は直接の規制対象ではない。ただし、投稿内容に関与した証拠がある場合、民事的な責任を問われる可能性もある[7]。
告示の内容と判断基準
消費者庁の告示によると、次のような表示が禁止されている。
「事業者が自己の供給する商品または役務に関して行う表示であって、一般消費者がその表示が事業者によるものであることを判別することが困難であるもの」[8]
この「判別困難な表示」にあたるかどうかは、
① 誰が発信しているのか
② 投稿内容の意図(誘引性)があるか
③ 広告である旨が明確か
といった要素を総合的に判断する。
また、SNS投稿やレビューだけでなく、転載・引用先のサイトでも広告であることを示す必要がある。インフルエンサーの投稿に #PR が付いていても、企業サイトに転載する際にその表記を消すとステマに該当するおそれがある[9]。
違反時の措置
違反が認められると、消費者庁は措置命令を発出できる。命令内容には、表示の是正・公表・再発防止策の実施などが含まれ、企業名は公式サイトで公表される。行政処分を受けた企業はブランドイメージに大きな打撃を受けるため、事前のリスク管理が不可欠だ[10]。
実際の摘発事例
東京都大田区の内科クリニック事案(医療法人社団祐真会)
2024年6月、消費者庁は東京都大田区の「マチノマ大森内科クリニック」を運営する医療法人社団祐真会に対し、ステルスマーケティング告示違反として措置命令を発出した[11]。
同クリニックでは、インフルエンザ予防接種を受けた患者に対し、「Googleなどで★4または★5の口コミ投稿を条件に550円割引を行う」という仕組みを導入していたとされる。これは口コミ評価を事業者の意図で操作し、かつ広告であることを明示していなかった点が問題視された。
この事例は、医療分野におけるステマ規制適用の象徴的ケースであり、以後の実務にも大きな影響を与えた。
RIZAP株式会社(chocoZAP事業)
続いて2024年8月、消費者庁はRIZAP株式会社(chocoZAP運営元)に対して措置命令を行った[12]。
同社はインフルエンサー投稿を自社サイト上で「口コミ」や「体験談」として掲載していたが、広告である旨を明示していなかった。消費者庁は「一般消費者が広告と判別できない」として、景品表示法第5条第3号に基づき是正を命じた。
この事案は、転載・引用の際の「広告明示」の重要性を改めて浮き彫りにした。SNS側で #PR 表記があっても、自社サイトに転載する際に削除・省略すれば、ステマ規制違反と見なされる可能性がある。
その他の事例
2024年度以降、ステマ告示に基づく措置命令は全国で計6件(消費者庁5件・都1件)に達している[13]。
業種は医療・フィットネス・化粧品など多岐にわたり、いずれも「広告であることを消費者が判別できない」点が共通している。
また、東京都は2025年3月、医療法人社団スマイルスクエアに対しても同様の措置命令を発出しており、地方自治体レベルでも取り締まりが広がっている[14]。
実務上の注意点
ステマ規制を「#PRを付ければ大丈夫」と誤解している企業は少なくない。だが、本来問われているのは表示の透明性だ。
消費者が「これは広告だ」と気づかないまま受け取るような情報設計であれば、形式上のタグ付けがあっても規制対象になりうる。
広告と口コミの線引きが曖昧な領域ほど、企業の姿勢が可視化される時代に入っている。
まとめ
ステマ規制の目的は、企業に「PR表記を義務づける」ことではない。
広告と口コミを区別できる透明な情報流通をつくることこそが、その本質だ。
短期的な訴求よりも、正直な発信が長期的な信頼を生む。
“ステマしない”という選択自体が、これからのブランド価値を決めていく。
引用文献
[1] ステルスマーケティングとは — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing
[2] ステルスマーケティングに関するQ&A — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/
[3] 国民生活センター「ステマ規制を学ぶ」
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202309_01.pdf
[4] ステルスマーケティングに関する告示(内閣府告示第19号) — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/
[5] 「景品表示法とステルスマーケティング」解説資料 — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/assets/representation_cms216_200901_01.pdf
[6] 告示第19号・運用基準(別添資料) — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_04.pdf
[7] ステマ規制の対象と考え方 — 消費者庁告示運用基準
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
[8] 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示の指定について — 消費者庁告示
https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/
[9] インフルエンサー広告の違反事例から学ぶステマ規制強化への対応 — モノリス法律事務所
https://monolith.law/corporate/influencer-stealth-marketing
[10] ステルスマーケティング規制(ステマ規制)に基づく行政処分 — 牛島法律事務所
https://www.ushijima-law.gr.jp/news/2024/08/stealthmarketing
[11] 医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/038178/
[12] RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/038980/
[13] 令和6年度 景品表示法に基づく措置命令一覧 — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/release/2024/
[14] 医療法人社団スマイルスクエアに対する措置命令 — 東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025032839
かつて日本では、こうした行為を直接規制する法律はなく、表示内容が「優良誤認」または「有利誤認」に該当する場合のみが景品表示法の対象だった。つまり、ステマ行為そのものを理由に処罰できる枠組みは存在していなかったのである[3]。
規制導入の背景と法改正の流れ
SNSやレビューサイトが購買行動に強く影響するようになり、企業と消費者の距離が近づいた一方で、広告主がその関係性を悪用するケースが増えた。特に「自然発生的な口コミ」を装った宣伝が相次いだことで、消費者庁は明確な規制の必要性を打ち出した[4]。
2023年3月28日、内閣府は「ステルスマーケティングに関する告示(内閣府告示第19号)」を公布。同年10月1日から施行され、ステマ行為自体が「景品表示法に基づく不当表示」として禁止対象となった[5]。
ステマ規制の枠組み
規制対象と範囲
ステマ規制の対象は、あくまで**広告主(事業者)**である。広告を依頼されたインフルエンサーや投稿者個人は直接の規制対象ではない。ただし、投稿内容に関与した証拠がある場合、民事的な責任を問われる可能性もある[6]。
告示の内容と判断基準
消費者庁の告示によると、次のような表示が禁止されている。
「事業者が自己の供給する商品または役務に関して行う表示であって、一般消費者がその表示が事業者によるものであることを判別することが困難であるもの」[7]
この「判別困難な表示」にあたるかどうかは、
① 誰が発信しているのか
② 投稿内容の意図(誘引性)があるか
③ 広告である旨が明確か
といった要素を総合的に判断する。
また、SNS投稿やレビューだけでなく、転載・引用先のサイトでも広告であることを示す必要がある。インフルエンサーの投稿に #PR が付いていても、企業サイトに転載する際にその表記を消すとステマに該当するおそれがある[8]。
違反時の措置
違反が認められると、消費者庁は措置命令を発出できる。命令内容には、表示の是正・公表・再発防止策の実施などが含まれ、企業名は公式サイトで公表される。行政処分を受けた企業はブランドイメージに大きな打撃を受けるため、事前のリスク管理が不可欠だ[9]。
実際の摘発事例
東京都大田区の内科クリニック事案(医療法人社団祐真会)
2024年6月、消費者庁は東京都大田区の「マチノマ大森内科クリニック」を運営する医療法人社団祐真会に対し、ステルスマーケティング告示違反として措置命令を発出した[10]。
同クリニックでは、インフルエンザ予防接種を受けた患者に対し、「Googleなどで★4または★5の口コミ投稿を条件に550円割引を行う」という仕組みを導入していたとされる。これは口コミ評価を事業者の意図で操作し、かつ広告であることを明示していなかった点が問題視された。
この事例は、医療分野におけるステマ規制適用の象徴的ケースであり、以後の実務にも大きな影響を与えた。
RIZAP株式会社(chocoZAP事業)
続いて2024年8月、消費者庁はRIZAP株式会社(chocoZAP運営元)に対して措置命令を行った[11]。
同社はインフルエンサー投稿を自社サイト上で「口コミ」や「体験談」として掲載していたが、広告である旨を明示していなかった。消費者庁は「一般消費者が広告と判別できない」として、景品表示法第5条第3号に基づき是正を命じた。
この事案は、転載・引用の際の「広告明示」の重要性を改めて浮き彫りにした。SNS側で #PR 表記があっても、自社サイトに転載する際に削除・省略すれば、ステマ規制違反と見なされる可能性がある。
その他の事例
2024年度以降、ステマ告示に基づく措置命令は全国で計6件(消費者庁5件・都1件)に達している[12]。
業種は医療・フィットネス・化粧品など多岐にわたり、いずれも「広告であることを消費者が判別できない」点が共通している。
実務上の注意点
ステマ規制は「知らなかった」では済まされない。企業のマーケティング担当者や広報チームが押さえておくべきポイントは次の通りだ。
- 広告である旨の明示を徹底する(#PRや「広告」などを明確に表示)
- 転載・引用先でも広告性を示す(自社サイトに掲載する際は注意)
- インフルエンサーへの指示・報酬提供を記録に残す(透明性確保)
- 過去投稿も再点検する(施行後も表示継続なら対象になる)
- 運用ガイドを社内共有する(クリエイティブ担当・代理店も含めて)
これらを怠ると、行政処分だけでなく、炎上や信用失墜にも直結する。
まとめ
ステマ規制の施行から1年あまり。行政処分の対象は医療やフィットネスなど多方面に広がりつつある。
特に「口コミ」「体験談」「お客様の声」といった表現は、意図せずステマに該当するリスクがあるため注意が必要だ。
短期的な話題づくりよりも、広告とわかる誠実なコミュニケーションを積み重ねることが、結果的に信頼を生む。
“透明性のあるPR”が、これからのマーケティングにおける前提条件になっている。
引用文献
[1] ステルスマーケティングとは — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing
[2] ステルスマーケティングに関するQ&A — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/stealth_marketing/
[3] 国民生活センター「ステマ規制を学ぶ」
https://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-202309_01.pdf
[4] ステルスマーケティングに関する告示(内閣府告示第19号) — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/
[5] 「景品表示法とステルスマーケティング」解説資料 — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/assets/representation_cms216_200901_01.pdf
[6] ステマ規制の対象と考え方 — 消費者庁告示運用基準
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
[7] 告示第19号・運用基準(別添資料) — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_04.pdf
[8] 医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/038178/
[9] RIZAP株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/entry/038980/
[10] 措置命令書(RIZAP株式会社 chocoZAP事案) — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_240809_01.pdf
[11] 医療法人社団スマイルスクエアに対する措置命令 — 東京都
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025032839
[12] 令和6年度 景品表示法に基づく措置命令一覧 — 消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/release/2024/

