ファストパスが街に降りてきた

「ファストパス」と聞くと、テーマパークを思い浮かべる人が多いだろう。
行列をスキップしてアトラクションを体験できる、あの便利な仕組みだ。
ところが今、その考え方が街の中にも広がりつつある。
日経XTRENDの記事[1]では、飲食店で導入が進む“順番待ちのデジタル化”が紹介されていた。
なかでも注目を集めているのが、**TableCheck社が提供する「TableCheck FastPass」**だ。
ユーザーが一定の手数料を支払うことで、人気店の優先案内枠を事前に確保できるという仕組み。
いわば「並ばない権利」をデジタル化したものだ。
行列に時間を奪われがちな飲食店の体験を、テクノロジーが静かに変えはじめている。
“行列文化”からの転換点
日本では、長い行列が「人気の証」として受け入れられてきた。
しかし、忙しい現代のライフスタイルでは、10分や20分の待ち時間が大きなストレスになることもある。
特にビジネスパーソンのランチタイムや、休日のショッピングモールではその傾向が顕著だ。
TableCheck FastPassは、そうした「時間のムダ」を削りながら、店舗にも新しい収益モデルをもたらす。
手数料収入という仕組みが追加されることで、飲食業界全体のマネタイズ構造にも一石を投じている[2]。
つまり、“待たせないこと”が顧客満足だけでなく、ビジネスの新しい価値設計に変わりつつあるのだ。
広がる「順番のDX」
この“街のファストパス”の波は、飲食店だけにとどまらない。
美容室やクリニックでも、アプリで順番や混雑状況を可視化できるサービスが普及している。
たとえば「EPARK」や「ホットペッパービューティー」では、スマホで予約から待ち時間確認、呼び出し通知まで完結できる。
テーマパークでも、USJの「ユニバーサル・エクスプレス・パス」やディズニーの「プレミアアクセス」などが進化し続けており、**“待ち時間そのものをデザインする”**流れが加速している[3]。
街でも、遊びでも、「待つ」という行為がテクノロジーによって再定義されているのだ。
効率化の先にある“体験の質”
ただし、効率化が進むほどに、私たちは“待つ時間に含まれていた価値”を見落としがちになる。
行列の中で期待を膨らませたり、偶然の出会いがあったり――そんな小さな余白も、都市生活の楽しみの一部だった。
“待たない社会”は確かに快適だが、時間を短くすること=豊かにすることではない。
これからの設計に求められるのは、単なるスピードではなく、「どう待つか」「どう過ごすか」までを含めた体験の最適化だろう。
たとえば、待ち時間を“体験時間”に変える仕組み。
順番を取ってからコーヒーを楽しめる併設スペースや、順番通知の間にショッピングができる連動設計など。
「待つ」ことと「過ごす」ことを分けないデザインが、次の進化の鍵になる。
“待たない”が、私たちをゆるやかにする
テクノロジーによって生活がどんどん効率化される一方で、私たちは“ゆとり”の定義を問われている。
並ばずに済む未来は、実は「急がなくてもいい時間を取り戻す」ための第一歩なのかもしれない。
ファストパスがテーマパークを越え、街の中で当たり前になる日。
その時、私たちは“待たされない便利さ”よりも、“時間を自分で選べる自由”を実感しているはずだ。
引用文献
[1] 街の中でもファストパス!? 飲食などで導入広がる「待ち時間を省く」仕組み − 日経XTREND https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/02465/
[2] 「TableCheck FastPass」提供開始 − TableCheck公式プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000108.000023564.html
[3] エクスプレス・パス|ユニバーサル・スタジオ・ジャパン公式サイト https://www.usj.co.jp/web/ja/jp/tickets/express-pass

