
街で感じる変化から
ここ数年、街を歩いていて「外国人旅行者が本当に増えたな」と感じることが多くなった。
観光地だけでなく、都心のカフェや地方の温泉街でも、旅行者が地元の人と同じように食事や買い物を楽しんでいる姿を見かける。コロナ禍で一度途絶えた光景が、今はすっかり日常に戻ってきた。
数字を見てもその実感は裏付けられる。2025年8月の訪日外客数は342.8万人と、前年同月比16.9%増で過去最高を更新した[1]。また、2024年の訪日外国人旅行消費額は8.1兆円に達し、こちらも過去最高を記録している[2]。
街の風景の変化は、日本の観光産業の力強い回復を物語っている。
訪日需要の回復と拡大
訪日外国人市場は、いまや完全に「復調」から「拡大」へとシフトした。
観光庁の調査によると、2024年の旅行消費額は8兆1,257億円で、内訳は宿泊33.6%、買物29.5%、飲食21.5%[2]。
いわゆる「爆買い」から、滞在型・体験型の消費へと移行していることがわかる[3]。
単価の面を見ると、2025年4〜6月期の訪日外国人1人当たり旅行支出は238,693円で、前年同期比で−0.1%とほぼ横ばいだった[4]。
つまり、全体の消費額は旅行者数の増加によって押し上げられているが、1人あたりの支出が大きく伸びているわけではない。ここに「数」と「質」のギャップがある。
高付加価値旅行者の存在感
こうした中で注目されるのが「高付加価値旅行者」だ。
JNTOは、長期滞在や高支出を特徴とする旅行者が増加していると指摘している[5]。特に欧米豪からの旅行者は一人あたりの支出が高く、文化体験や自然に基づくアクティビティを求める傾向が強い。
一方で、アジア圏は短期滞在や買物中心の旅行が多く、ボリュームはあるが単価は比較的低い。この二層構造をどう戦略に取り込むかが今後の鍵になる。
消費の質的シフト
消費の内訳を見ると、買物の比率が徐々に下がり、宿泊や飲食のシェアが高まっている[2][3]。
これは単なる数値の変化ではなく、旅行者が日本に求める価値が変わってきていることを示す。
つまり「限定商品を買う」よりも「ここでしか体験できないことを味わう」ことに魅力を感じているのだ。
マーケティングの視点で言えば、商品の主役はモノから体験へと移りつつある。宿泊と食事、アクティビティをどう組み合わせ、どう物語として伝えるかが重要だ。
マーケティングの示唆
この動向から導ける示唆は三つある。
第一に、商品設計の再構築。
免税店やショッピングキャンペーン頼みではなく、地域資源を生かした体験パッケージや文化プログラムの整備が求められる。
第二に、ターゲットの明確化。
アジア圏と欧米豪では旅行スタイルも消費傾向も異なる。短期滞在向けには効率的な観光プラン、長期滞在向けには深い体験や地方観光を組み込むといった、セグメント別の戦略が必要だ。
第三に、ブランドとしての日本の再定義。
円安の追い風がやや弱まりつつあるなかで、「安く旅行できる国」ではなく「行く価値のある国」としてどう位置づけるか。価格以上にストーリーや体験価値を訴求することが求められる。
これからの展望
インバウンド市場は「数が戻った」こと自体がニュースになる時期を過ぎた。
これからは「どのように質を高めるか」という問いに正面から向き合うフェーズに入っている。
高付加価値層を惹きつける商品づくり、体験価値を中心としたマーケティング、そして地方誘客による観光資源の分散。
観光を「安さ」ではなく「価値」で売る。
その転換点に、いま日本の観光マーケティングは立っている。
引用文献
[1] 訪日外客数(2025年8月推計値) − 日本政府観光局(JNTO)
https://www.jnto.go.jp/news/press/20250917_monthly.html
[2] 訪日外国人消費動向調査(2024年年間値) − 観光庁
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001856155.pdf
[3] インバウンド消費の質的変化 − ニッセイ基礎研究所
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=82744?site=nli
[4] 訪日外国人消費動向調査(2025年4-6月期) − 観光庁
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001900538.pdf
[5] 高付加価値旅行者に関する動向 − 日本政府観光局(JNTO)
https://www.jnto.go.jp/news/press/20250611.html

