定義が多すぎるという前提
マーケティングという言葉は、昔から多義的だった。
しかも最近では、その定義が時代や環境に合わせて急速にアップデートされている印象がある。たとえば、かつては「市場創造」や「売れる仕組みづくり」といったビジネスの内部最適化に軸足を置いた定義が多かったが、いまは社会的価値やサステナビリティまでを含んだ広がりを見せている。

それだけに、どこかで聞いたような言葉にまとめると、どうしても薄っぺらくなってしまう。
「価値を創造して顧客に届ける活動」だとか、「顧客視点の全社的な取り組み」だとか──教科書的な定義はあるものの、現場の実感とはズレていることも少なくない。
とはいえ、多義的だからこそ、ある瞬間にふと心に残る表現に出会うことがある。今回は、そうした「印象に残った定義」を2つ紹介したい。
チャンスを活かし、ピンチを乗り切るプロセス
ある企業のマーケティング責任者がこう語っていた。
「マーケティングとは、チャンスを活かし、ピンチを乗り切るためにリソースを投入するプロセスである」
この定義は、机上の理論ではなく、現場での意思決定に直結している。売上が伸び悩んでいるとき、新しい顧客層が見えてきたとき、競合の動きに対応しなければならないとき──そうした状況において、どこに資源(人・金・時間)を割くべきかを判断する枠組みとして、マーケティングがあるという視点だ。
数字の裏にある文脈を読み解き、組織の動きを変えていくプロセス。それが「マーケティング」と呼ばれるものの実態に近いのかもしれない。
活動を促す触媒であるという視点
もうひとつ、印象に残った定義がある。
「マーケティングとは何よりもまず『活動を促す触媒』である」
触媒という言葉が使われているのがユニークだ。これは化学反応を加速させるもののように、マーケティングの存在が事業やチームの活動を“促すもの”であるという意味だ。
これは、自社のメンバーだけでなく、顧客やパートナー、社会全体をも巻き込む視点を含んでいる。良いマーケティングは、説明しすぎない。けれど、人を動かす力がある。それが行動に火をつけるのだ。
この定義は、マーケティングを「分析」や「計画」としてではなく、「エネルギーの媒介」として捉えている点が興味深い。
定義に意味はあるのか
「結局、マーケティングって何?」という問いに対して、万能な答えはない。ただ、こうしたユニークな定義に触れることは、自分自身がどんなスタンスでこの領域に関わっているかを見直すきっかけになる。
役職や業界を問わず、誰もが少なからずマーケティング的な判断を日々している。だからこそ、時には言葉を借りて、自分の視座を確かめるのも悪くない。
引用文献
[1] マーケティングの定義とその進化 − 総務省 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nc122110.html
[2] 日本マーケティング協会が定義を34年ぶりに刷新 − 電通報 https://dentsu-ho.com/articles/8811
[3] 日本マーケティング協会「定義刷新に関する発表」 − AdverTimes(アドタイ) https://www.advertimes.com/20240131/article447566
[4] 旧・日本マーケティング協会 定義(1990年) − PR TIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000122632.html

