モノではなく“コト”にお金を払う時代、宿泊業界も「体験価値」を軸に進化している。特に注目されているのが、ブランドやキャラクターとの世界観を空間で再現した「コンセプトホテル」だ。

単なる話題づくりにとどまらず、ファンエンゲージメント、ブランディング、そしてSNS拡散によるプロモーション効果など、多面的なメリットを生み出す仕掛けとして今、企業のマーケティング戦略に組み込まれ始めている。
ブランド体験を“空間化”する意義
かつてブランドは、広告や商品を通じて「見せる」ものだった。しかし今は、ブランドの“中に入る”体験が求められている。世界観を五感で感じられる宿泊体験は、記憶に残り、シェアされやすく、再訪意欲にもつながる。
事例①:コアラのマーチホテル(ロッテシティホテル錦糸町)
1984年発売のロングセラー「コアラのマーチ」が、まさかの“泊まれる世界観”として再登場した。
ロッテシティホテル錦糸町に設置された専用ルームでは、壁紙・寝具・クッションなどすべてが“コアラまみれ”。ファンが喜ぶ「名前入りコアラ」の仕掛けと親和性が高く、SNSでの投稿を誘発する設計となっている。
さらに注目すべきは、サンリオキャラクターズとのコラボ企画。シナモロールやポムポムプリンとコアラが融合した限定デザインは、Z世代の“推し活”層への訴求力が高い。
🔗 公式サイト:ロッテシティホテル 錦糸町 – コアラのマーチルーム
事例②:HOTELドンキホーテ宮崎(エアラインホテル)
“ごちゃごちゃ感”が愛されるディスカウントストア、ドン・キホーテ。その世界観を丸ごと客室に持ち込んだのが「HOTELドンキホーテ宮崎」だ。
宮崎市のエアラインホテル内に設置されたこの部屋には、ドンペンのぬいぐるみ、ドンキ的POP装飾、照明まで完全再現されている。全国初の公式コラボルームとして、インバウンドや“ネタ宿”を求める若年層を中心に支持されている。
なぜ“泊まれるブランド”は強いのか?
これらの事例から見えてくるのは、次のようなマーケティング的示唆だ:
- ① UGCを自然に生む構造
→ 写真を撮りたくなる内装、特典グッズ、記念性のある演出 - ② 価格競争からの脱却
→ 世界観や体験に価値があるため、価格以外の評価軸で選ばれる - ③ ファンマーケティングの深化
→ 単なるファンではなく、“一度は泊まりたい”という行動を伴う熱量 - ④ SDGs・ストーリー性の文脈(第一陣の鉄道/航空系ホテルにも通じる)
→ ブランド資産をリユースし、新たな文脈で再定義する動き
まとめ:宿泊は広告になる
いまやホテルは「寝る場所」ではなく、「体験するメディア」だ。ブランドの世界観に“泊まれる”という体験は、ファンにとって忘れがたい記憶となり、企業にとってはもっとも自然で影響力のあるプロモーション手段になる。
コアラのマーチも、ドンキホーテも、従来とは異なる形でその価値を拡張し、宿泊業界を舞台にした新たな“コンテンツビジネス”を展開しているのだ。