
マーケティングでは「市場シェアを伸ばす」という話がよく出てきます。
もちろんそれも大切ですが、本当に強いブランドは少し違う戦い方をしています。
その代表例がポカリスエットです。
ポカリスエットはスポーツドリンク市場で勝とうとしているだけではありません。「水分補給が必要な場面で真っ先に思い出されるブランド」になることを目指してきました。
この視点で見てみると、ブランド戦略の本質が少し違って見えてきます。
想起集合という考え方
マーケティングには「想起集合(Consideration Set)」という考え方があります。
何かを買おうと思ったとき、頭の中に自然と候補として浮かぶブランドの集まりのことです。
どれだけ優れた商品でも、その候補に入らなければ選ばれることはありません。
つまりブランドにとって重要なのは、「どんなカテゴリーの商品か」だけではなく、「どんな場面で思い出してもらえるか」です。
日本では「スポーツ」だけではない
ポカリスエットと聞くと、多くの人はスポーツの後に飲むイメージを持っていると思います。
しかし実際には、それだけではありません。
風邪で熱が出たとき、「ポカリを買ってきて」と言われた経験がある人も多いのではないでしょうか。
熱中症対策、お風呂上がり、脱水気味のとき、二日酔いなど、水分補給が必要なさまざまな場面でポカリスエットは思い出されます。
つまり、「スポーツドリンク」という商品カテゴリーではなく、「汗をかいた」「体調を崩した」「水分補給が必要になった」という生活シーンそのものにブランドが結び付いているのです。
だからスポーツをしない人でも、自然とポカリスエットを手に取ります。
海外では文化に合わせて想起集合を作る
この考え方は海外でも変わりません。
例えば中東では、ラマダン期間中の断食明けに水分を補給する飲み物として認知を広げています。[1]
日本では「風邪を引いたらポカリ」ですが、中東では「ラマダン明けにはポカリ」というように、その国の文化や生活習慣に合わせて、ブランドが思い出される場面を作っているのです。
商品は同じでも、想起されるシーンは国によって変わります。
現地の生活者に合わせて想起集合を広げていくことが、グローバルブランドとして成長してきた理由の一つと言えるでしょう。
競争相手はスポーツドリンクではない
この事例を見ると、ポカリスエットの競争相手はスポーツドリンクだけではないことが分かります。
喉が渇けば水やお茶と比較されます。
風邪を引けば経口補水液と比較されることもあります。
暑い日には清涼飲料水全体が選択肢になります。
つまり、競争しているのは「スポーツドリンク市場」ではなく、「水分補給が必要になるあらゆる場面」です。
大塚製薬も発売当初から、スポーツ時だけでなく日常生活における水分・電解質補給という新しい習慣を広げることを目指してきました。[2]
仕事でも同じことが言える
この考え方は、商品だけではありません。
例えばコンサルタントであれば、「経営戦略を相談する人」という認識だけでは、相談される機会は限られます。
一方で、「生成AIを導入したいときに相談する人」「新規事業を立ち上げるときに相談する人」のように、具体的な場面と結び付けば、自然と想起される機会は増えていきます。
企業でも個人でも、「何を提供しているか」だけでなく、「どんな瞬間に思い出されるか」を考えることが、ブランドづくりでは重要なのだと思います。
おわりに
ポカリスエットは、スポーツドリンクを売っているのではありません。
「水分補給が必要になったら思い出すブランド」を育ててきたのです。
ブランドはカテゴリーで選ばれるのではなく、状況で思い出されます。
あなたのサービスや仕事は、どんな場面で真っ先に思い出される存在になっているでしょうか。
引用文献
[1] 世界の文化に溶け込んだ「ポカリスエット」 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00379/120600004/
[2] ポカリスエットストーリー(大塚製薬) https://www.otsuka.co.jp/two-core-businesses/stories/pocarisweat/

