形だけの計画が、本物の計画を駆逐する
「悪貨は良貨を駆逐する」という経済原理を、ビジネスの世界に置き換えた考え方がある。
それが「計画のグレシャムの法則」だ。

意味するところはシンプルで、形ばかりの計画(悪貨)が、本質的な計画(良貨)を押しのけてしまうという現象を指す[1]。
組織では、見栄えのいい計画書や派手なプレゼンが評価されやすく、地味でも実効性の高い計画が軽視されることがよくある。
なぜ「悪貨的な計画」が勝ってしまうのか
人は安心感を求める。
数字が整い、スケジュールが網羅され、グラフがきれいにまとまっていると「計画している感じ」が出る。それだけで安心できるのだ。
一方で、本当に価値のある計画は不確実性を含む。仮説が多く、リスクも明示する。だから一見「未完成」に見える。
結果として、**見た目が整った“わかりやすい計画”**が重視され、**現実を正直に描いた“考えるための計画”**が後回しになる。これが「計画のグレシャムの法則」が働く構図だ。
現場で起こる「計画の形骸化」
たとえば新規事業の企画を立てるとき。
市場分析やKPI、ロードマップを詰め込んだ資料は、一見完璧に見える。
だが、現場が動き出すと誰もその資料を参照せず、日々の業務対応に追われるだけになってしまう。
このとき、計画は「報告のための資料」に変質している。
本来の目的である意思決定のためのツールではなく、説明責任を果たすための儀式になっているのだ。
計画を「生かす」ための視点
計画を悪貨化させないためには、いくつかの視点が必要だ。
まず、計画は完成させるものではなく更新するものだと捉えること。
現場の動きや学びに合わせて、柔軟に書き換えていく前提を持つことが大切だ。
また、「なぜそうするのか」を必ず残す。
数値や手順よりも、意思決定の根拠や仮説の意図を共有できるようにしておく。
さらに、計画を“評価の対象”ではなく“議論の起点”にすること。
形式的な計画が優先されるのは、評価制度が「整っていること」を重視するからだ。
そうではなく、計画そのものを対話の出発点とする文化をつくれば、悪貨的な計画は自然と淘汰される。
おわりに
「計画のグレシャムの法則」は、私たちの思考が“形”に流されやすいことを映す鏡でもある。
計画づくりの目的は、見せるためではなく、考えるため。
その原点を見失わない限り、どんな環境でも良貨は生き残る。
大切なのは、形式よりも思考の深さを優先する姿勢を、組織の中に根づかせていくことだと思う。
引用文献
[1] グレシャムの法則とは?ビジネスにおいて“悪貨”を広めないために − JUGAAD株式会社 https://jugaad.co.jp/workflow/workflowuseful/greshams-law/

