
昨年、日本マーケティング協会が34年ぶりにマーケティングの定義を刷新したというニュースが話題になった[1]。
これは単なる言葉のアップデートではなく、僕たちの仕事の仕方や価値観の前提そのものを静かに揺さぶるような“事件”として受け止めたほうがよさそうだ。
今回はその新定義を読み解きつつ、少し前に自分でも綴っていた「マーケティングって、そもそも何だろう?」という記事を思い出したので、そこにも触れながら考えてみたい[2]。
新定義に込められたメッセージ
まずは新しい定義の要点を簡潔に整理しておく。
マーケティングとは、顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである[1]。
これまでのマーケティング定義と比べて、大きく変わった印象を受けるのは次のようなポイントだ。
- 「共に価値を創造する」という共創的な視点
- 価値を「浸透」させるという、単なる交換を超えた広がりのニュアンス
- 「関係性の醸成」や「持続可能な社会の実現」といった、より社会的・長期的なゴールの提示
- 主語が“企業”だけではなく、個人や非営利組織も含まれるという前提の拡張
従来の「ニーズの発見」や「売れる仕組みの設計」といった実務文脈だけでは捉えきれない広がりがある。この定義は、おそらくマーケティングそのものが「経済の仕組み」ではなく、「社会や文化の一部」として再定義されようとしている兆しなのかもしれない。
なぜ今、定義を変える必要があったのか
背景には、ここ数年で起きている社会と技術の変化がある。
たとえば、AIやビッグデータによって「誰が何に関心を持ち、どこでどう反応したか」が即時に把握できるようになったこと。SNSやオンラインコミュニティのように、顧客自身がブランドを語り、意味づけを加えるようになったこと。そして何より、サステナビリティや社会課題への意識の高まりと、それを無視できない企業へのプレッシャー。
単に「売る」「広める」ではなく、「共に考え、価値をつくり、関係を育てる」ような営みへと、マーケティングの重心が動いてきた。定義の刷新は、そうした現場の変化をあとから追認するようなかたちで訪れたのだと思う[1]。
そういえば、以前も「マーケティングとは?」を綴っていた
今回この定義を見たとき、ふと以前書いた記事のことを思い出した[2]。
「“マーケティング”ってなんだろう?」というタイトルで、4Pや施策フェーズを起点に、実務視点からマーケティングを言語化しようとしたものだった。当時は「売れる仕組み」をどう設計するか、その中でどんな視点が必要かを整理しようとしていたけれど、今思えば「価値の共創」や「関係性の醸成」といった視座は、まだあまり視野に入っていなかった気がする。
今回の定義刷新を受けて読み返してみると、整理しきれていなかった“余白”や“暗黙の前提”が改めて見えてきて、少し恥ずかしくもあり、同時に発見もあった。
そのときの記事はこちら[2]。
まだ読んでいない方は、よければ合わせて読んでもらえるとうれしい。
言葉が変わった先に、何が変わるのか
定義が変わったからといって、すぐに日々の仕事のやり方がガラッと変わるわけではない。けれど、「そもそもこの取り組みは誰とどんな価値をつくっているのか?」という問いを時折立ち止まって考えるきっかけにはなる。
キャンペーンを打つ、データを分析する、SNSで発信する。どれも手段としては大事だけれど、その一つひとつの先に「関係性」や「共創」が生まれているかどうか。そういう目線を持てるかどうかで、マーケティングの意味合いは少しずつ変わってくるのかもしれない。
まとめ:定義はゴールではなく、問いのはじまり
マーケティングの定義が変わったからといって、すべての正解が用意されたわけではない。むしろ、「何を共創するのか?」「誰との関係性を育てたいのか?」「それはどんな社会につながるのか?」といった問いを、個々の現場ごとに引き受け直すフェーズに入ったのだと思う。
言葉が更新されるということは、僕たちが立つ地面が少し動いたということでもある。
その振動をどう受け止め、どこに足を運ぶか。定義をきっかけに、また考えてみたい。
引用文献
[1] 日本マーケティング協会が34年ぶりにマーケティングの定義を刷新 − ウェブ電通報 https://dentsu-ho.com/articles/8811
[2] “マーケティング”ってなんだろう? − Hidelab https://hidelab.jp/freamwork/340/

