経営戦略の中で頻出する2つのキーワード

ビジネスや経済のニュースで、「水平統合」や「垂直統合」という言葉を見かけることがある。特に企業のM&A(合併・買収)を語る場面では、頻繁に登場するキーワードだ。
ただ、聞き慣れてはいても、具体的にどういう意味なのか、なぜ重要なのか、身近な事例に置き換えて理解している人は案外少ないかもしれない。
今回はこの「水平統合」と「垂直統合」という2つの戦略を、シンプルな解説と生活者視点の事例を交えて整理してみたい。
水平統合とは何か?
水平統合とは、同じ業種や類似分野に属する企業・サービスが統合することを指す。目的は、事業のスケールを拡大したり、競合を減らしたりすることにある。
もっとわかりやすく言えば、「似た者同士で手を組む」ことで、より大きな力を得ようとする動きだ。
たとえばリクルートの「ホットペッパー」シリーズ。もともとは飲食店予約に特化した「ホットペッパーグルメ」が始まりだったが、そこから派生して美容室予約の「ホットペッパービューティー」、さらにネイルやリラクゼーションサロンなどへと、“予約”という横の市場を拡張していった。
これは「飲食」「美容」「ヘルスケア」など業界は違えど、「予約プラットフォーム」という共通項で統合が進んでいることを意味しており、非常にわかりやすい水平統合の例と言える。
また、企業規模の統合だけでなく、
- 顧客基盤やポイントシステムの共有
- 管理画面やアプリ開発の共通化
- 広告宣伝の一体運用
など、運営面での効率化やクロスセルの可能性も広がっていく。
企業戦略の解説においても、水平統合による「コスト削減」「市場支配力の強化」「新規市場の取り込み」が主要な狙いとして挙げられている[1]。
垂直統合とは何か?
これに対して、垂直統合とは、サプライチェーン上で前後の工程を持つ企業同士が統合することを意味する。
たとえば、衣料品メーカーが自社で原材料を調達し、製造し、販売まですべて一貫して行うようなケース。小売業者を買収するパターンもあれば、逆に製造工程を巻き取る形もある。
身近な例としてはユニクロ(ファーストリテイリング)の戦略がある。ユニクロは商品の企画・製造・物流・販売までを自社グループで一貫して行うSPA(製造小売業)モデルをとっており、まさに垂直統合の実例である。
このような統合には、
- 品質の安定
- コストの最適化(中間業者を介さない)
- スピードや在庫調整の柔軟性
- 顧客体験の一貫性
といったメリットがある。
公正取引委員会の報告資料では、「垂直型の企業結合は、例えばメーカーと販売業者、または供給者と製造業者の間におけるもの」と明示されており、サプライチェーンの前後関係に着目した戦略であることがわかる[2]。
水平統合と垂直統合の違い
両者の違いをひと言で表すなら、
- 水平統合:「横に広げる」戦略(似た業種を束ねる)
- 垂直統合:「縦に深める」戦略(工程を内包する)
という構図になる。
どちらを採るかは、企業が何を強化したいのかによって異なる。
たとえば、市場での存在感を拡大したいなら水平統合が有効。一方で、商品の質や顧客体験を一気通貫で管理したいなら垂直統合が向いている。
近年はこの2つを組み合わせるハイブリッド型の企業も増えてきており、単なる「どっちか」ではなく、戦略の優先順位によって統合の方向性を決めるという柔軟なアプローチが主流になりつつある。
近年の動向と注目される背景
たとえば国内小売業では、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンという3強が長年市場を牽引しており、それぞれグループ内での再編や事業統合が進んでいる。実際、近年のデータではコンビニ市場において3社で約9割のシェアを占めており、水平統合による寡占化が鮮明になっている[3]。
一方、ITや製造業の分野では、サプライチェーンの混乱や地政学的リスクを背景に、垂直統合の再評価が進んでいる。
Appleはその代表例で、自社でOS・デバイス・アプリストア・サービス提供までを一貫して展開することで、プロダクト全体の体験を完全にコントロールしている[4]。
日本国内でも、飲料メーカーが製造・物流・販売チャネルをグループ内に内包し、ブランド価値の強化と安定供給の両立を図る動きが活発になっている[5]。
経営の主導権をどこに置くか
水平統合と垂直統合、どちらが正解という話ではない。
大切なのは、企業として「何に主導権を持ちたいのか」という視点だ。
市場そのものに影響力を持ちたいのか、製品やサービスの質を自ら設計・管理したいのか。外部に依存せず、どの領域を自社で握るべきか。その意思こそが、戦略を決定づける鍵になる。
不確実性が増すいま、企業に求められているのは単なる効率化だけでなく、主導権と柔軟性を両立する構えなのかもしれない。
引用文献
[1] 【事例紹介】ケースごとに見るM&Aの成功例と失敗例を比較し … − Trigger Consulting https://trigger-consulting.com/archives/blog/casema
[2] 令和2年度における主要な企業結合事例について − 公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/dk/kiketsu/jirei/r2nendo_files/R2jireikiketsu.pdf
[3] 再び拡大に転じたコンビニ市場 3強のシェア9割のなか − ダイヤモンド・チェーンストア編集部 https://diamond-rm.net/retaildata/157073/
[4] Apple公式サイト − Apple製品の設計思想 https://www.apple.com/jp/
[5] 飲料業界の動向とM&A戦略|食品M&A − 日本M&Aセンター https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2024/x20240724-1/

