「大きい会社ほど強い」は本当だった時代
いまでは「選択と集中」や「コア事業への投資」が経営の常識になっている。しかし、1980年代までの日本では事情がまったく違っていた。
繊維会社が化粧品を作り、小売業がホテルやプロ野球球団を持ち、クレジットカード会社がローンやリース事業まで展開する。ひとつの企業グループが生活のあらゆる場面に関わる「コングロマリット(複合企業)」が、日本経済を象徴する存在だった。
ところが、バブル崩壊や市場の成熟を経て、多くの企業は事業を整理し、グループを再編する道を選んだ。
その変化を知るうえで、カネボウ、ダイエー、そしてセディナは非常に興味深い存在である。

カネボウ──「繊維会社」が生活総合企業を目指した時代
カネボウのルーツは1887年創業の鐘淵紡績にある。もともとは紡績会社だったが、繊維産業で培った化学技術を応用し、石鹸や化粧品、医薬品、食品、樹脂などへ事業を広げていった[1]。
高度経済成長期には「繊維会社」という枠を超え、「生活総合企業」と呼べるほど多角化が進む。化粧品ブランド「KANEBO」や「テスティモ」、ヘアケアブランド「ナイーブ」など、多くのヒット商品を世に送り出したことを覚えている人も多いだろう[1]。
しかし、繊維事業の低迷に加え、多角化によって抱えた事業の管理が複雑化し、経営環境は急速に悪化する。2000年代には粉飾決算問題が発覚し、企業グループは事実上解体された。現在、化粧品事業は花王グループのブランドとして存続している[2]。
カネボウの歴史は、多角化が成功する時代と、それを維持する難しさの両方を教えてくれる。
ダイエー──流通革命を起こした巨大企業
1957年に中内㓛が創業したダイエーは、日本の流通業を大きく変えた企業だった。
「よい品をどんどん安く」という理念のもと、スーパーマーケットという業態を全国へ広げ、小売業売上高で日本一にまで成長する[3]。
全盛期には、スーパーだけではなく、ホテル、不動産、外食、プロ野球球団、コンビニエンスストアなど幅広い事業を抱え、まさに流通コングロマリットとして君臨した。
しかし、バブル期の積極投資によって膨らんだ負債は、景気後退局面で重荷となる。さらに競争環境が激化すると経営再建を余儀なくされ、産業再生機構による支援を経て、現在はイオングループの一員となっている[3]。
ダイエーが残した教訓は、「規模が大きいこと」と「経営が強いこと」は必ずしも一致しないという点にある。
セディナ──ブランドよりも「顧客基盤」が価値を持つ時代
セディナは少し毛色が違う。
2009年、オーエムシーカード、セントラルファイナンス、クオークの3社が合併して誕生した信販会社である[4]。
かつて信販業界は、クレジットカード、ショッピングローン、自動車ローンなどを武器に急成長した。しかし、貸金業規制の強化や市場成熟によって、単独企業では十分な競争力を維持しにくくなった。
その結果、カード会員数や決済システムを統合する流れが進み、セディナもSMBCグループの再編の中で統合され、現在は三井住友カードへ集約されている[5]。
この流れを見ると、金融業界では企業名そのものよりも、顧客基盤やシステム、決済ネットワークの価値が重視されることがよく分かる。
3社に共通していたもの
一見すると業種はまったく異なる。
しかし、この3社には共通したストーリーがある。
高度経済成長期には、市場が拡大し続けていたため、多角化や規模の拡大が企業価値を押し上げた。一方で、市場が成熟すると、利益率や資本効率が厳しく問われるようになり、「何でも持つ企業」よりも「強みを磨く企業」が評価されるようになった。
現在のビジネスパーソンが企業分析をするときも、この視点は欠かせない。売上高や従業員数だけを見るのではなく、「その企業はどこで利益を生み、どこに経営資源を集中しているのか」を見ることで、本質が見えてくる。
コングロマリットの歴史は、過去の成功談ではない。市場環境が変化したとき、企業がどのように生き残ろうとしたのかを知るための、現代にも通じるケーススタディなのである。
引用文献
[1] クラシエ「会社の歴史」 https://www.kracie.co.jp/company/info/history/
[2] カネボウ化粧品「沿革」 https://www.kanebo-cosmetics.co.jp/company/history/
[3] ダイエー「沿革」 https://www.daiei.co.jp/corporate/history/
[4] SMBCグループ「SMBCファイナンスサービスの沿革」 https://www.smfg.co.jp/chronicle20/history20/section10412column1.html
[5] 三井住友カード「旧SMBCファイナンスサービス株式会社 沿革」 https://www.smbc-card.com/company/info/enkaku_history_exfs.jsp

