はじめに

長く親しまれてきた「Tポイント」という名前が、昨年ついに姿を消しました。
2024年春、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が三井住友カードと共同で発表したブランド統合により、TポイントとVポイントは一本化。
青と黄色の新しい「Vポイント」が誕生しました[1]。
長年、蔦屋書店やファミリーマートをはじめとする日常の買い物で貯まっていたTポイント。
その名称が変わっただけでなく、運営の軸が“文化・小売”から“金融・決済”へと移ったことは、この国のポイント経済の大きな節目だったと思います。
そして2025年9月、ファミリーマートではTカード(Vポイント磁気カード)の提示運用が終了しました。
正確には、プラスチックカードによる読み取りが終わり、ファミペイやモバイルVカードなどスマホアプリでの提示方式に切り替わったという形です[2][3]。
その翌月、10月3日にはVポイント事業会社であるCCCMKホールディングスを、三井住友カードが子会社化することを発表しました[4]。
つまり、ファミマの現場では「カードからアプリへ」、経営の上では「小売から金融へ」。
Tポイント時代の象徴だった構造が、ちょうど一年をかけて刷新されていったことになります。
ファミマで何が起きたのか
ファミリーマートは、2025年8月31日をもってVポイント(旧Tポイント)磁気カードの読み取りを終了しました[2][3]。
レジで「カードを差し出す」おなじみの光景は消え、代わってファミペイやVポイントアプリを通じたバーコード提示が標準となりました。
同時に、長年親しまれてきた「ファミマTカード」の会員サービスも終了[5]。
9月からは**新しい「ファミマカード」**が登場し、ファミペイ連携で最大5%割引を受けられるようになりました[6]。
「ポイントを貯める」から「その場でお得に買う」へ。
ファミマは顧客が“即時性”を感じられる設計にリデザインしたわけです。
TポイントからVポイントへ──金融が握る次の主導権
Tポイントを長年支えてきたCCCグループにも、大きな変化がありました。
2025年10月3日に発表されたニュースによれば、三井住友カードはCCCの子会社であるCCCMKホールディングス(旧Tポイント/現Vポイント事業会社)の株式を追加取得し、2026年3月末をめどに子会社化する計画です[4]。
再編後の出資比率は、三井住友カード55%、三井住友フィナンシャルグループ25%、CCC20%。
CCCMKHDは「Vポイントマーケティング株式会社」へ商号を変更し、代表者もSMBCグループ側から選任される予定とされています。
これにより、Vポイントは実質的にSMBCグループ主導の共通ポイントへと生まれ変わります。
単なるリブランディングではなく、ポイントの“運営権”が文化産業から金融産業へ移ったというのが実態です。
ファミマとCCC──長年のパートナー関係に一区切り
ファミマはTポイントの立ち上げ当初から、CCCの主要パートナーでした。
ファミマTカードはTポイントの象徴的存在でもあり、ポイント経済圏を支える柱の一つでした。
しかしここ数年、ファミマは楽天ポイントやdポイントなど他社サービスも受け入れ、ポイントの中立化を進めていました。
そして今回、CCCがVポイント事業の主導権をSMBCグループへ移したことで、
ファミマとCCCの関係は穏やかに距離を取りながら、それぞれの新しい立ち位置へ移行したように見えます。
今後のファミマは、自社アプリとファミペイを中心に顧客との接点を握りつつ、
Vポイントを含む複数のポイントを柔軟に“受け入れるプラットフォーム”として進化していくはずです。
金融主導のポイント時代へ
この一連の流れが示しているのは、共通ポイントの主導権が小売から金融へ移ったという事実です。
SMBCグループはVポイントを「金融サービスと生活データを結ぶ共通ポイント」と位置づけており、
アプリ統合、決済連携、リアルタイム還元などを通じて新たな経済圏を構築しようとしています[4]。
Vポイントの背後には、クレジット取引・口座情報・購買履歴などの膨大なデータが蓄積されます。
この“金融×リテールデータ”が結びつく構造は、今後のマーケティングや信用設計のあり方を変えていくでしょう。
利用者としての変化と対応
制度変更後も、ファミマでVポイントを貯める・使うことは可能です。
ただし、これまでのように物理Tカードを提示することはできず、アプリ提示が前提になりました[2][3]。
ユーザーとして押さえておきたいポイントは次の通りです。
- ファミペイとVポイントアプリを連携しておく
- 物理カードはファミマで利用不可(9月以降)
- 他ポイント(dポイント・楽天ポイント)との併用条件を確認
- 新ファミマカードの割引条件をチェック
Tカードが“消えた”というよりも、スマホに吸収されたというのが実際のところ。
利便性は上がる一方で、アプリ操作や連携手続きの慣れが求められる時代になっています。
おわりに
カードからアプリへ。カルチャーから金融へ。
この一年の変化は、共通ポイントの表層を超え、日本のリテールと金融の関係を静かに変えました。
ファミマはリアル店舗での顧客接点を磨き、三井住友カードは金融とデータの側面からその体験を再設計する。
それぞれが自分の得意分野を軸に、ポイントという仕組みを再定義しているように見えます。
かつてレジで「Tカードお持ちですか?」と聞かれたやり取りも、
いまやスマホの画面の中で完結するようになりました。
便利さの裏で、誰が顧客体験を設計し、どのデータが主導権を握るのか。
その問いこそ、2025年のTポイント終焉が投げかけた本当のテーマなのかもしれません。
引用文献
[1] TポイントとVポイントの統合について − CCCMKホールディングス
https://www.cccmkhd.co.jp/news/2024/20240109_000751.html
[2] ファミリーマートでのVポイント磁気カード(Tカード)の読み取り終了のお知らせ(事前案内) − ファミリーマート
https://www.family.co.jp/famipay/info/info_250520.html
[3] ファミリーマートでのVポイント磁気カード(Tカード)の読み取り終了のお知らせ − ファミリーマート
https://www.family.co.jp/famipay/info/info_250901.html
[4] 三井住友カードによる CCCMKホールディングス 株式の追加取得および子会社化について − カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
https://www.ccc.co.jp/news/press/20251003_001387.html
[5] ファミマTカード(クレジットカード・ポイントカード)会員サービス終了のご案内 − ファミリーマート
https://www.family.co.jp/services/fcard/info/info250526.html
[6] ファミマ初!おトクな「ファミマカード」が登場!ファミペイ連携で最大5%割引 − ファミリーマート ニュースリリース
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2025/20250827_01.html

