はじめに

「毎日忙しくて休む暇がない」。そんな声をよく耳にします。でも本当に日本人の余暇は減っているのでしょうか。調査結果を丁寧に見ていくと、意外にも「増えている」とも「減っている」とも言える状況が浮かび上がります[1]。さらに最近ではテレワークが普及し、移動時間が減ったことで余暇のとらえ方に新しい変化が見えてきました。
年や一生でみると余暇は確実に増えている
まずは長期的なスパンから。平均寿命はこの80年ほどで30年以上延び、定年後に過ごせる時間は飛躍的に長くなりました。また週休二日制が広がったことで年間休日数も増加。こうした背景から、一生涯や年間単位でみると日本人の余暇は着実に増えてきたといえます[1]。
平日はむしろ減っている
一方で、平日一日の時間の切り取り方に目を向けると違った顔が見えます。1970年代以降、フルタイムで働く人の平日余暇は減少傾向にあり、男性はこの30年で週に5時間ほど短くなりました。女性も大きな変化はないものの、平日の余裕はやはり削られています[1]。休日が増えた分、土曜日の余暇は増えましたが、平日の「忙しさ感」が強まっているのは確かです。
テレワークが変えた移動時間
ここ数年の大きな変化がテレワークです。総務省の「社会生活基本調査」によれば、テレワークをしていた人は通勤時間が短くなった分、睡眠や趣味・食事などにあてる時間が増えていました。特に25〜34歳では、睡眠時間が1日あたり40分以上増え、趣味・娯楽の時間も約30分増加していると報告されています[2]。
さらに、2016年と比べると「休養・くつろぎ」の時間は20分ほど増加。一方でテレビ・新聞などのメディア視聴や交際・付き合いの時間は減少しており、余暇の過ごし方自体が変わってきていることもわかります[2]。
加えて、内閣府の「男女共同参画白書」では、テレワーク導入の目的のひとつとして「勤務者の移動時間の短縮」が明記されています[3]。環境省も年間で約275時間の通勤時間削減効果を試算しており[4]、これはまさに余暇の“新しい源泉”といえるでしょう。
広がる余暇の格差
ただし、この恩恵はすべての人に平等ではありません。学歴や職種によって余暇の変化は異なり、ホワイトカラーや高学歴層ほど余暇を減らし、ブルーカラーや学歴が短い層は余暇が増えるという傾向が報告されています[1]。さらに、テレワークができる職種とそうでない職種の間にも大きな差があります。つまり「余暇の量」だけを見ても不十分で、「質」や「分配」に目を向けることが欠かせません。
おわりに
日本人の余暇は「増えた」とも「減った」とも言えます。寿命や休日の増加で長期的には余暇が伸びる一方、現役世代の平日はむしろ削られてきました。そこにテレワークという新しい働き方が加わり、通勤に使っていた時間が余暇に変わりつつあります。
個人的には、老後に余暇が増えるよりも「今この瞬間の暮らしに少し余裕があること」の方が大切だと感じます。世代や職種を越えて、時間をどう分け合い、どう質を高めていくか。その問いが、これからの働き方と余暇のあり方を決める鍵になるのではないでしょうか。
引用文献
[1] 日本人の余暇時間 − 日本労働研究雑誌(黒田祥子, 2012年8月号) https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2012/08/index.html
[2] 社会生活基本調査(令和3年結果の概要) − 総務省統計局 https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/188.pdf
[3] 男女共同参画白書 平成25年版 − 内閣府男女共同参画局 https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h25/zentai/index.html
[4] テレワークの効果試算(通勤時間削減) − 環境省 https://www.env.go.jp/press/press_03895.html

